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2222以下为收费内容(by http://www.prretyfoot.com)壊れた魔術師と勇者の話

13,066文字
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壊れた魔術師

何がいけなかったんだろう。
この前から俺の頭にはその言葉だけがぐるぐると渦巻いていた。
こうなる前に、できることはあったはずだった。
こうなる前に、前兆があったはずだった。
こうなる前に、彼女を気遣ってあげればよかった。
だけど、そんな後悔では起こってしまった結果は変わらない。
俺がやることはただひとつ。
勇者として彼女を倒すだけだー。


足を踏みいれた館はとても老朽化していた。崩れないのが不思議なくらいだ。恐らく彼女の魔法が聞いてるのだろう。
俺の名前はレイヴ。王国から正式に認められた勇者である。
この世界は魔族に侵略されていた。どうしようもないほど追い詰められ、人類滅亡までカウントダウンが始まるかと思われたとき、俺は勇者に選ばれた。
はじめは唐突で信じてもいなかった。だが、勇者に選ばれた翌日から一般村人だった俺の力は上級魔族の首さえ素手で引きちぎれるほどまで上がっていた。
その後俺は剣を学び、勇者として旅をしていた。
一人旅ではない。幼馴染みの魔術師が一緒だった。途中から回復魔法が得意な王国の姫も仲間になった。
何度も苦難を乗り越えて、俺は人類が奪われた領土の8割を奪い返していた。何度も苦しい戦いをしていくうちに、俺と姫様は互いに惹かれあい結婚を前提に付き合い始めていた。
戦闘としても、人生としてもまさに最高の時期ーそう思っていた。
幼馴染みの魔術師が、あんなことをするまでは。


古びた館を探索し、いくつかの扉を潜った先で、ついに俺はこの事件の元凶を見つけた。
黒のニーソックにミニスカート、薄手の生地の衣類の上に俺が買ってあげた黒いローブを身に付けて、トレードマークの魔女帽を被った姿。何度も何度も見てきた、見慣れた姿。その顔は帽子で見えなかったが彼女は俺を見ると微笑みを浮かべていった。

「ぁ、やっときてくれたんだぁ……」

自分の行為を棚にあげ、俺との再会を喜ぶ彼女。
彼女こそ、俺と共に旅をしてきた幼馴染みの魔術師ーレミィだった。


ことの発端は三日前。俺と姫様が付き合いはじめて1週間がたとうとしたとき、それは突然起きた。
姫様が魔族に拐われたのだ。
そもそも、彼女には退魔の魔力と言う特別な魔力があった。魔族にとって最大の弱点ともいえる特異な魔力を持った彼女は魔族にとって邪魔な存在だ。彼女をつれた俺たちは何度も魔族とぶつかり、この度にある時は命を狙われ、ある時は連れ去れかけた。
その度に俺たちは魔族とぶつかり迎撃していたのだがーその日ついに拉致されてしまったのだ。
その原因が、彼女ーレミィである。
その日レミィはあろうことか、俺の食事に睡眠薬を混ぜ、更に睡眠の魔法をかけた上で彼女の後ろから魔力封じの手錠をかけ、彼女を魔族に引き渡すと自らも姿を消した。
はじめは魔族に操られたのかと思ったが調査を続けていくうちに、彼女がちょうど一週間前ーつまり俺と姫様が付き合いはじめてからずっと、魔族と秘密裏にコンタクトをとり、綿密な計画をたててたことがわかった。

「ごめんね……。すぐにでも話したかったんだけど……色々ごたついてて。だから、見つけてくれるのを待ってたんだ……。すごい久しぶりだよね?レイヴと二人きりで話すの……。」
「レミィ。……姫様はどこだ?」
「……。探せばいるよ。この館のどこかに。捕虜として扱うって言う魔族との約束だから。法律に則った待遇は、約束する。」

姫様と俺が口にしたとたん、目に見えて彼女の態度が変わった。苛立ちと、心のそこからどうでもいいと言うような態度。その態度から予測していたことではあったが、動機がすぐに俺だと理解した。
レミィは昔から俺なんかよりずっと頭がよかった。だが同時にどこにいくにしても彼女は俺についてきた。俺が勇者になると決めて剣の修行を始めると一年もしないうちに彼女はそれまで学んだこともなかった魔法を勉強し、僅か一年もしないうちに村一番の魔法の使い手となり王国でも10人しか選ばれない最強の魔法使いの称号"大賢者"を得た。
けど彼女は俺ちょっと影で俺の陰口を叩いた村人に大ケガを負わせたり、俺に喧嘩を吹っ掛けてきたチンピラを半殺しにする危うさもあった。
俺に嫌がらせをしてきた政治家は数日で失脚し、俺をバカにした記事を書いた記者は後に勤めていた会社が破産して倒産した。
彼女は俺のことになるととたんに極端な行動に出るアブナイ節があるのだ。そしてそれはきっと俺への愛情表現であったのだ。でも俺はそれに気づかないふりをしつづけ、ついには姫様と結婚してしまった。彼女はそれに耐えられなかったのだろう。
この一件は、必ずしも彼女のせいではない。少なからず俺が原因だ。けど、起きたことはもう変えられない。

「ー。王国からの最終通告だ。今すぐ姫様を無傷で引き渡せ。それなら、命を奪うような処罰は与えない。さもなくばー」
「別にいいよ」

くだらない、と吐き捨てるように彼女はいった。

「姫様も、私の命も、王国も世界もどうでもいい。ねぇ、レイヴ?もし姫様を無傷で引き渡したらレイヴは私と結婚してくれる?ずっと一緒にいさせてくれる?」
「それはー」

それは、彼女からはじめて向けられた告白だった。耐えられなくて、辛くて、彼女にここまでさせるほど俺は彼女に愛されているのだろう。それだけのきもちを俺に向けてくれてるのだろう。そのことはすごい嬉しい。ーでも。

「ごめん。それは、無理だ。俺はもう、姫様を選んでしまったから。」
「……。そう、だよね……。レイヴはそういうよね……」

そういって俺から目をそらして顔をうつむくレミィ。あぁ、本当に。自分はどうすればよかったんだろう?どうすればこんな結末を迎えなくてよかったんだろう。

「ーレミィ。王国からの依頼だ。もし姫様を無傷で引き渡す条件をお前が飲まない場合、俺がお前を殺す約束になってる。」
「……。」

返事がない。動かない。うつむく彼女を視線にとらえながら俺は静かに剣を構える。せめて、苦しませないように一撃で。
 
「……ーこれまで、ありがとう」

俺は彼女の心臓をめがけ剣をつきいれるため、走り出そうとー

「……じゃあ、レイヴの間違った気持ちを正してあげないとね?」
「ーぇ」

俺が踏み込むより早くレミィはローブを広げた。黒いローブの下から魔術師としての衣服に包まれた彼女の柔肌が、剣を突き立てんとする俺を迎え入れるかのように広げられる。そして同時に鼻腔にふわりと、甘い匂いが届いた。嗅いだことのない、けれど決して不快ではない、甘く、濃い匂い。

「なんー……っぁ……」

なんだこの匂いは、と聞く前に俺のからだに異変が襲った。背筋にぞわぞわとした快楽が走ったと思った瞬間全身から力が抜け、走り出そうとしていた俺の体はそのまま前に倒れこんだ。辛うじて剣を杖がわりにすることで持ちこたえたがそれでも全身が一切不快感のない倦怠感に襲われ、力を込めるのが難しい。何が起こったかを思考しようとした頭もまるで甘い匂いの糸に絡めとられたように回らない。頭がぼんやりして、方向感覚さえ失いそうなる。この心地よい脱力に身を任せたい誘惑に刈られる。

「なにを、し……た……ぁ………」

なんとか質問をしようとしてレミィを見た瞬間どくんと心臓が波打った。彼女は幼馴染みで、一緒に冒険して。裸とは言わなくても服を着た彼女なら見慣れたはずなのに。ドキドキが、止まらない。
魔術師の衣類はどれも露出が多い。曰く、魔力の流れが感じやすいとかなんとか言っていたのを覚えている。レミィのローブの下の衣装もまた、例に漏れず露出が多い。ミニスカートは少しでも動けばパンツが見えてしまいそうで、ニーソックとミニスカートのあいだから見える真っ白な太ももが黒を基調にした服装のせいでより強調される。肩もお腹も出していてそのどれもが男の俺なんかと比べてもとても柔らかそうで魅力的に見える。そしてなにより、彼女の胸だ。
10歳くらいの頃から大きくなり始めたレミィの胸は、10年たった今ではローブの上から膨らみがはっきり見えるほど彼女の胸は大きくなっていた。その上でその魅惑的な谷間を見せつけるような布生地は大きさだけでなくその胸の柔らかさすら視覚で訴えてくるようだった。
俺だって男子だ。彼女の大きな胸をみて思春期の頃はオナニーをしてたこともある。姫様とであってからはそんなことしてないが、それでも今改めて見せつけられると、それはあまりに魅力的で、妖艶だった。

「くすくす。どうしたの?……剣突き立てなくていいの?ほら、おいで」
「っぁあっ……まっ、やめ……しゃべ、るなぁ……」

匂いだけでない。声も甘く脳に絡み付くように聞こえる。匂いもいっそう濃くなり息をするだけでも声を聞くだけでも全身にピリピリと快感がはしり、更に力が抜けてしまう。
なんだ、これは。
なにをされたんだ、俺は。

「戸惑う顔、かわいいね……レイヴ……。」

困惑する俺をよそに彼女はそんな独り言を呟くとそのままその場で一回転する。より甘い匂いが強くなりからだに走る快楽の電撃がいっそう激しくなる。その快楽に耐えきれずついに膝をつい倒れをみてレミィは自慢げに語りだした。

「これね、サキュバスの魔法なの。フェロモン・メルトアウトっていうとっても強力な魔法……。男の人が嗅ぐといろんな効果があるの。精力増強、色気への耐性低下、匂い出してる人を好きになったり、発情しちゃったり、敏感になったり……思考を邪魔しちゃったり。ほんとにいろんなえっちな効果がね……♥️」
「サキュバスの、魔法……だと……!?」
「そう。お姫様を差し出した交換条件で好きな魔族の魔法を教えてくれるって言われたから……サキュバスの魔法、おしえてもらったの。サキュバスは、わかるよね?」

知っている。俺たちのメンバーで俺だけが男ゆえにサキュバス系統で狙われるのが一番危険だと教えてくれたのはそもそもレミィだ。
そのため冒険では魅了に一番耐性を持つ、姫様をメインにレミィが援護をし、邪魔が入らないように周囲の雑魚を俺が倒す戦いかたをしていた。故に、俺が直接サキュバスと戦ったことはない。
これが、サキュバスの魅了魔法。頭が痺れ、力は溶け落ち、桃色に全身を染め上げられるような感覚。そのうえどこまで言っても不快感はなく、それゆえにどんどんとこの感覚に溺れてしまいそうになる。

「レイヴは魅了に全く耐性ないもんね……。いつも私とあの女で倒すようにしてたし、魅了もちは最優先で殺してたから。ここまでの冒険で魅了なんてなったこと、ないもんね……。どう?はじめての魅了魔法の感想は……くすくす……♥️」
「ぅ、あぁぁ……しゃ、喋るなぁっ……声、だけでも、これっ……」
「うん、わかるよレイヴ……。声だけで気持ちいいんだよね?聞いてるだけで背筋ぞわぞわして、頭ぽわぽわして、うまく頭、回らなくなるんだよね♥️でも……私が教えて貰った魅了魔法は、ひとつじゃないんだよ……♥️」

すっ…とレミィがポーズをとる。脇を見せ、おっぱいやお尻のボディラインを強調するような扇情的なセクシーポーズ。その姿に思わず目が釘付けになる。そしてー

「まずこれが初級の魅了魔法…えいっ♥️」
「ぇ……?ぁ、あああああ!?」

レミィが、とても可愛らしくウインクした。
とたんにハートが弾けレミィからハートの形をした魔力のオーラが流し込まれる。そのハートが俺のからだに入り込む度にピリピリと甘い痺れが全身に走り回る。目の前のレミィがより一層可愛くみえてドキドキが止まらない。

「これが、チャームウインク……だよ♥️低級のサキュバスも使ってくる魅了魔法……。レイヴくらいの戦士になれば魅了耐性がついてこれくらい耐えられるんだけど……レイヴに耐性はついてないもんね……♥️ほら、もう一回……ぱちっ♥️」
「なぁっ♥️ぅ、あぁぁ……♥️」
「レイヴはこっちのポーズの方がいいかな……?ぱちっ♥️それともこっち?……ぱちっ♥️」

レミィが、ポーズを次々と変えながらウインクをする。胸を強調してたり、足をみせつけるようなポーズだったり、どれも妖艶で可愛らしいポーズ。そして決まってポーズをとりおわるとチャームウインクを飛ばしてくる。
レミィはただウインクをしてるだけ。そして俺はそれをみてるだけ。なのに、まるでからだの内側から撫で上げるような快感が全身を襲ってくる。その上、ウインクをみればみるほどレミィにどんどん見惚れてしまう…。
柔らかそうで大きな胸が揺れる度にドギマギし、彼女がポーズを変える度にどうしても視線がみえそうで見えないスカートに惹き付けられる。
可愛い。とにかく、レミィが可愛い。
思考がレミィで埋め尽くされる。興奮で息が荒くなる。レミィのことしか考えられなくなりそうなのを必死で耐える。

「ふふっ……頑張るねレイヴ……。私はそういうレイヴの頑張り屋さんなところ、好きだよ……♥️」
「あぁぁぁあああっ!そういう、ことを……言う、なぁ……!」

『好き』。
レミィにそういわれただけで全身にぞわりとした刺激と圧倒的な幸福感に襲われる。頬が緩むのを必死に耐える。反撃とか、攻撃とか、そんなのを考える余裕はなかった。自分の心と戦い、衝動を押さえ込むのだけで必死だった。

「じゃぁ次の魔法いくね…。中級のサキュバスあたりからよく使ってくる魅了魔法なんだけどね…」

必死な俺を他所にレミィは楽しそうにそう告げると人差し指と中指を自身のぷるぷるの唇にもっていく。そこからどんな動作を行うのかは明らかだった。

「ん……chu♥️」
「ぁ……」

可愛い。あまりに可愛すぎる投げキッス。
来るのがわかってたのにその可愛さに見惚れ、警戒も何もかもを忘れて惚けってしまう。
頭のなかで何度も繰り返される投げキッスの動作。
その妄想にとらえられた俺は…投げキッスと共に放たれたハートがふわふわとゆっくりとした軌道で、けど確実に自分に近づいてきてることにすら気づかなかった。そして…ハートがぽわんと、俺に当たって弾ける。

「ひっ……ぁ、あ……♥️」

そして今度の魅了魔法の効果は、絶大だった。
ハートが弾けた瞬間、思考は完全にフリーズした。なにも考えられなくなった。音も、匂いも、視覚も、あらゆる感覚がレミィを感じることにだけ使われ、それ以外に使われなくなる。必死に押さえ込もうとしてた心から「すき」が溢れだし、それ以外の感情が恋慕の濁流に呑まれて押し流されていく。

「あはっ……♥️効果覿面だね……♥️かわいいよ、レイヴ……♥️もっといじめたくなっちゃう……♥️」

頬を赤めらせ、サディスティックな笑みを浮かべるレミィ。俺が始めてみる彼女の素顔。だが、それさえもう異常なまでにかわいく、きれいで魅力的に見える。声を出したら「すき」が漏れそうで、ただ一度でも「すき」が漏れたら大変なことになりそうで。俺は必死に口を開けないように脱力したからだに無理に力をこめて、耐えた。
しかし、それを許すほど彼女は甘くない。
レミィは数歩前へ歩き俺へ近づく。
剣を振れば届く距離だ。確実に彼女の首をとらえられる距離だ。けど、俺にそんな余裕はない。
彼女が近づく度にあの魅惑的な柔らかで真っ白な果実がぷるんと揺れ、その揺れと共にその豊満な果実から彼女の匂いーフェロモン・メルトアウトが一層濃くなり、より脱力を誘い、より恋心を煽ってくる。とにかく、剣なんて震えない。なんとか隙をみつけて逃げなければならない。必死に俺のあたまの、僅かに残った理性が警鐘を鳴らす。
それでも、俺の足は一歩も動かなくて。
それでも、俺の視線は彼女からはずせなくて。
それでも、俺の鼻は彼女のフェロモンを嗅ぎつづけて。
それでも、俺の耳は彼女の声しか聞こえなくて。
それでも、どうにかしないといけない筈なのにー

「はい、ぱふん♥️」
「あ、ぉあ、ひ……♥️」

声になってない悲鳴が、俺の口から溢れた。
レミィは限界まで近づくとその魔性の胸の谷間に俺の頭を招き入れ、包み込んだのだ。
柔らかでしっとりとしたおっぱいが俺の肌に吸い付いてくる。抜け出そうと首を動かすと吸い付いていたおっぱいが名残惜しそうな感触を残しながら離れ、すぐさま次の乳肌が顔にくっつく。魔乳を味わえば味わうほどその快楽と共に力を奪われ、同時にもっとこの谷間に顔を埋めたい、抜け出したくないと言う欲望が急激に膨らんでいく。

「ほら、レイヴのお顔、私のおっぱい監獄に閉じ込めちゃった……♥️どう?きもち、いいかな……♥️」

嬉しそうに、でもどこか不安そうに聞いてくるレミィ。なるほど、確かに此処は監獄だ。
鍵のかかっていない監獄。抜け出そうとすれば抜け出せるのにその甘いフェロモンが、柔らかな感触が、極上の快楽が。俺の頭と心をとろかせ縛り付け抜け出せなくなる魔性の監獄。囚われたものが抜け出せなくなる底無し沼のような監獄だ。

「抜け出そうと暴れていいの?♥️そんなに激しく動くと……くすくす……♥️大変なことになっちゃうよ♥️」

レミィの警告。しかし、俺はとにかく逃れようと焦って体を何度もくねらせて逃げようとした。既に冷静な自分を失っていたのだ。
結果としてもがけばもがいただけ何処までも沈み込むようなしっとりとした乳肌を頬や顔に擦り付けるかたちになってしまう。どう体をうごかしても極上の感触が、甘い痺れを脳に送りこみ、体の力という力が抜けてしまう。『とにかく抜け出そう』とする俺の意思を無視しておっぱいから発せられる『もっとここにいていい』という命令を脳が受け取って実行してしまう。いつしか俺の抵抗は抵抗とも呼べないほど弱々しいものになってしまった。

「抵抗しなくても……気持ちよくなっちゃうでしょ……♥️」

レミィの言う通りだった。一度自ら顔を魔乳に擦り付けることを覚えたからだは危険だと理解しているのにビクビクと体を震わせてしまう。それに、抵抗をやめたことで彼女の、レミィの甘い匂いをより強く意識してしまう。
鼻の奥に絡み付くような重くて甘い、それでいて不快感もない、吸えば吸うほど濃密な桃色の霧が頭のあちこちを隠して、なにも考えられなくなっていくような感覚に襲われる匂い。危険なのは分かってるのに、なにが危険なのかを思い出そうとすると思考に霧がかかり、酷くこの匂いがほしくなって吸い込んでしまう。そのフェロモンの快感で体がびくつき、力を奪うおっぱいの感触に絆され、気づくと脳内に新たな桃色の霧が現れる。どんどん、考えられることを狭められていく。彼女の事しか、レミィのことしか考えられなくなっていく。
自分が剣を既に手離してることにさえ気づくことができない程、レミィに夢中になっていく。
それが、とても、心地いい。

「あ、ふふっ……♥️レイヴのここ、もう涙流してるよ…♥️そんなに気持ちよかったのかな……♥️」
「あ……♥️」

レミィの黒い手袋に包まれた手がズボンの上から分かるほど大きくして染みをつけている俺の肉棒をつつー……っとなぞった。それだけで背筋がぞくんとして、大きく体を震わせる。漏れだしている程度だった我慢汁が一気に溢れて、俺の肉棒を湿らせていく。それこそ涙を流しているように。

「ズボンの上からなのに、すごい反応だねレイヴ……♥️かわいい……♥️」
「や、やぁ、ひ、それ、やばっ……」

レミィのさらさらの手袋をつけた指先がズボンの上から肉棒の先をくるくると回る。と、思えば軽く爪を立て、かりかりと先っぽを刺激する。何度も何度も、不規則に責め手を変えながら、その、極上の肌触りの手袋の感触と、彼女の手の、指の暖かさをこれでもかと味あわせてくる。

「まだ、ズボンの上からだよレイヴ…♥️ほら、こうやって……」
「ぇ、ひぇ、なっ、なんでっ…!?」

レミィが指をならすと共にズボンとパンツが一瞬で脱がされた。これもサキュバスの魔法、なのかは定かではないがズボンとパンツがなくなったことでレミィの掌と俺のどろどろの肉棒を隔て、僅かでも快感を抑えていた壁が、なくなってしまった。
彼女の言う通り、まだズボンの上から、しかも指だけでもこれだったのだ。そのまま握られたときの快楽を与えられたら俺が壊れることなんて想像するのも容易いものだった。
でも、俺は逃げることが出来なかった。逃げる力はもう残っていない。僅かに抵抗する力さえ顔を包み込む魔乳とそこから立ち上るフェロモンにとかされてしまっている。

「ほらみて、レイヴ…」

彼女はそんな無抵抗ながらも反抗しようとする俺を知ってか知らずか、胸の谷間から顔をずらすと自分の掌を見せてきた。
黒く、すべすべした手袋を纏った、彼女の掌。
その指一本一本がクラゲの触手のようにくねくね動くそれは、あまりに妖艶で、たちまち俺は目をそらせなくなる。

「ぁ、あー…」
「今からレイヴのおちんちんは私のこの手に包まれちゃうんだよ……♥️極上の肌触りの手袋に包まれた……とーっても暖かい私のお手々に包まれちゃうの……♥️しかも……」

もう一本の手で指をならすと彼女の小物入れから一本の小瓶が浮いて出てくる。瓶のなかには蜂蜜のような、みてわかるほどの粘性をもった琥珀色の液体が入っている。その蓋が彼女の魔法によってひとりでに、ゆっくりと、俺に見せつけるように開いていく。そしてー

「ぁ……♥️」
「くすっ…♥️」

瓶が空いたとたん濃密な『甘さ』が俺の鼻腔を貫いた。この匂い、この甘さ。間違いなく彼女の、レミィのフェロモンだ。しかも、それを何倍にも濃くして濃縮したような重く、こびりつく匂い。それを一嗅ぎしただけで、強烈な甘い快楽が鼻から脳へ、脳から脊髄へ、脊髄から全身へゾクゾクとはしり、気づいた時には俺は変な声をあげていた。

「期待、しちゃったんでしょ……♥️」
「ちがっ、そんなんじゃ……」

彼女の発言を否定しようと言葉を並べようとするがそれよりはやくレミィは魔法で浮かせた小瓶をさかさにし、その液体を自分の手にまぶしていく。
にちゅ、ぬちゅという粘液の音と共に黒い手袋が液体でコーティングされていく。
その、あまりにいやらしい光景に並べようとした言葉は霧散し、脳内を再び桃色に染め上げられてしまう。あの手に包まれた時の快楽を、その時の光景を嫌でも思い浮かべてしまう。
そして、そんな俺をみてレミィは再びクスリと笑う。

「もうそんなにみて……♥️やっぱり期待してるのね、レイヴ……♥️」
「だ、だから、違……そういうのじゃ、なくて……」
「じゃあどうして逃げないの?どうして無理にでも抜け出さないの……?」
「それは、れ、レミィが……おっぱいで、力……ぬけて……」
「まだ言い訳するんだ……♥️じゃあレイヴにひとつ、質問するね……?」

違う。言い訳じゃない。力がぬかれてどうしようもないだけで、期待なんてしていない。
必死に、自分に言い聞かせるように何度も言葉を思い浮かべる。
そう、俺は期待なんてしていない。逃げられないだけ。そんな、期待なんて。してるわけがー

「なんで、レイヴはそんなに嬉しそうなの……♥️」
「ーぁ……」

そのレミィの指摘は、俺が取り繕っていた理性のメッキを、引き剥がすのに十分だった。
逃げられないだけ。期待なんてしていない。
いや、そんなのは言い訳にすぎない。
俺は……本当のところ俺は期待してしまっているのだ。
直感的な恐怖心より、想像できる未来より。
レミィが与えてくれる快楽を、期待してしまっているのだ。
王から与えられた命令より、勇者としての使命よりー姫様より。
レミィのことが、レミィのくれる快楽のことが大切になってしまってー

「ーはい、ずにゅん♥️」
「~~~~~~!?!?」

突然、彼女の手で作られた筒が肉棒を包み込む。
彼女の言葉に意識を乱され、肉棒のことを考えられなくなった、ほんの一瞬をついた『わかっていたはずの不意打ち』だった。

「あはっ♥️とっても良さそうだねレイヴ……♥️そんなに、気持ちいい……?こえ、とまってないよ……♥️」
「あ♥️や♥️ひぃ♥️ち♥️ちがっ♥️こっ♥️これはっ♥️」

にっちゅ、にっちゅ、にっちゅ、にっちゅ。
ずにゅ、ずにゅ、ずにゅ、ずにゅ。
彼女の手がリズミカルにシコシコと動く度に、彼女のすべすべの手袋と、それにいやらしく絡み付いた蜜が、これまでに感じたことのない快楽を注ぎ込んでくる。一往復する度に俺の心が、理性が溶かされていくのがわかる。壊されていくのがわかる。
耐えないと。我慢しないと。快楽に狂わされていく心のなか、必死に理性をかき集めてー

『なんで、レイヴはそんなに嬉しそうなの……♥️』
「ーぁ♥️」

彼女の言葉が脳裏によみがえった。
そう、だ。そうだ。さっき、認めてしまったではないか。俺は期待してしまっていたと。逃げようとする心さえ言い訳だと。
もうすでに、負けてしまっているんだと。
心のささえが無くなった途端、俺の理性はがらがらと音をたてて崩れていく。瓦礫となった理性を、快楽と言うレミィの蜜が溶かしていく。
ああ、もう俺はレミィに負けてしまったんだ。もう、姫様よりレミィを優先してしまったんだ。レミィをー好きに、なってー

「ーレイヴ、好きだよ♥️」
「ーあ♥️」

心を読んだような囁きが、とどめになった。

「れ、れみっ♥️れみぃ♥️す♥️すきっ……♥️俺もっ……す、きぃ……♥️」
「あはっ♥️やっと素直になってくれたねレイヴ♥️腰がくがく自分から振って私のお手手の感触をむさぼって……♥️そんな可愛いレイヴ、私も……すーきっ♥️」
「ひ、ぁっ♥️れみっ♥️それっ♥️耳元でさ、さやかれる、とぉっ……♥️」
「耳元で囁かれるの、すき、なんだね……♥️いいよ♥️もっとしてあげる……♥️すき♥️レイヴ、すき♥️すきだよレイヴ……♥️だーいすき……♥️」

落ちていく。堕ちていく。溺れていく。
心のささえを失った俺は、まるで吸い込まれるように彼女の作った快楽でできた堕落の海へ沈んでいく。一度快楽を認めてしまえば、落ちるのは秒読みだ。ジェットコースターが坂道を下るように、俺の心はレミィの思いがままに落ちていく。慌てて這い上がろうとしても、その気持ちが身体を動かす前に新たな快楽が、彼女の囁きが俺を縛って絡めとる。
あまい囁きが脳の奥に響いて反響する度、頭を滅茶苦茶にとろかして好意だけを残していく。
そしてその囁きと、好意と、快楽があれば人の恋慕を暴走させるには十分すぎる働きをする。

「おっ♥️おれっ♥️おれもすきっ♥️れみぃ、が、すきっ♥️あっ♥️だ、だいすっ…きぃ……♥️」
「知ってるよー……♥️私もレイヴがすき♥️だーいすき……♥️あ・い・し・て・る♥️」
「あぁぁぁあああっ……♥️」

好意の過剰摂取。ただただ甘い囁きを耳から徹底的に注ぎ込まれる。それに溺れて「すき」と伝えれば「だいすき」と返され、「だいすき」と伝えれば「愛してる」と返される。次第に注ぎ込まれる好意も、膨れ上がる恋慕も大きくなって、危険になっているのに、今の俺はそれさえも気持ちよくて。堪らなくて。そして、そんな俺の心と身体に追い討ちをするように粘液が絡み付いた、彼女の暖かな掌が俺の肉棒の弱いところをしつこく虐めぬく。
指でできた狭い輪っかをくぐらされたと思えばカリをそのまま刺激する。亀頭を触手のように蠢く指でくにくにと弄び始めれば、それにあわせて気紛れに爪先で裏筋をカリカリと引っ掻く。
先端ばかり責められ意識がそっちに持ってかれた途端、今度は蜜がたっぷり絡み付いたその掌で棹を包み込み、さらさらとした手袋の感触と、掌の柔らかな感触と、蜜によりねっとりとした感触の、本来同時に発生しない感触を一斉に刻み込んでくる。
こんな、人とは思えない快楽と、染み込んだ魅了と、爆発した恋慕にのまれた俺は、もうすぐに、射精しそうになってしまって。

「れ、れみっ……♥️レミ、ぃ……♥️」
「うん、分かってるよレイヴ……♥️射精しそうなんだよね…♥️もう我慢、できないんだよね……♥️びゅー……びゅーって気持ちいい射精、したいんだよね……♥️」

レミィがにっこりと笑ってる。押し付けられるのがやめられていた魔乳が再び顔を包んでくる。快楽を受け入れてしまったからか、フェロモンもさっきまでより濃くて、一瞬で思考も視界も桃色の霧に侵食されてしまう。もうなにもわからない。もうレミィしかみえない。もうレミィのことしか考えられない。考えたくない。

「いいよ……♥️沢山だそうね……♥️このまま射精すると、もう私の魅了魔法が魂にまで定着して、二度ともとに戻らなくなるけど……いいよね♥️」
「ぇ♥️あ♥️……ぇっ……」

まだ理性が残っていたのか、本能的な何かか。
レミィの言葉に突然、尋常じゃない恐怖心が生まれる。頭から血が抜けて、冷静さか戻ってくる。
彼女は何て言った?わからない。ちゃんと聞けてなかった。けど、俺は今何をしてるんだ?
俺はレミィを倒しにきたはずだ。俺は、そう、俺はなにか大切なものを取り返して、誰かの依頼で彼女を倒しにきて。
魅了漬けの頭からまるでパズルのピースを集めるように自分の目的や現状を理解していく。少しずつ壊れた理性と心をかき集めて修復していく。だがー

「それじゃぁー」

レミィが、そんなことに気づかないわけもなく。
俺のからだの状態はなにも変わってなく。
そして、レミィが俺の理性と心がなおるのを待つわけもなく。

「イッちゃえ……♥️レイヴ……♥️イッて、壊れちゃえ……♥️」
「いっ……!?♥️」

ぐちゅぅ。にちゅ、ねちゅ。
ぢゅこ、ぢゅこ、ぢゅこ、ぢゅこ。
ぢゅこぢゅこぢゅこぢゅこ。

レミィの手は、どんどん早くなって。
俺の、弱いとこ、的確に、責めて、きて。
頭、白と桃色でバチバチと痺れて。

「あ゛♥️だ♥️や゛だっ♥️ごわれっ♥️ごわれゅ♥️でる♥️で、あ゛♥️ああ゛あ゛ぁっっっ!!」

どくどくっ……びゅるっびゅるるるるるるるっ……

「はーい……♥️びゅー……びゅるるー……♥️気持ちいい、気持ちいいね、レイヴ……♥️」
「が……♥️ぁ、ひ♥️あぁぁ……♥️」

射精した瞬間、頭を支配していた恐怖心も、何もかもがどうでもよくなった。気持ちいい。とにかく気持ちいい。こんな、こんな気持ちいい射精あり得ない。そう考えてしまうくらい気持ちよくて。そして、目の前のレミィがその気持ちよさの分すきに成っていく。理性も心も、これまでの記憶さえ精液として吐き出したかのように頭のなかも心のなかも全てをレミィでいっぱいにする。ただそれが気持ちいい。

「ねぇ……レイヴは私と結婚してくれる?ずっと一緒にいさせてくれる?」

レミィのその告白はどこかで聞いたことがあった気がした。どこで聞いたのだろうと考えようとして、ーレミィが再び俺の肉棒を握りしめたことですべてがどうでもよくなった。

「うん……する……レミィと、結婚する……から……」
「ほんと?じゃあレイヴは私のことすき?世界で一番愛してくれる?…お姫様より愛してくれる?」

レミィのその言葉はどこか確認してるようだった。だが、俺にはそんなこと関係ない。姫様?誰だっけ?どこのお姫様かなんて知らないが、俺にとっての「姫」はー

「うん…愛してる……♥️レミィが、一番すき…♥️」

ー彼女だけだ。

「あはっ……♥️じゃあこれからずっと…ずーっと一緒にいようね、レイヴ……♥️」
「うん、一緒に、いる……♥️」

お互いの愛を確かめあうように抱きしめあう、俺とレミィ。
俺のめから涙がこぼれたのは……
きっと、最愛の人と結ばれた嬉し涙、なのだろう。
俺はレミィと視線をあわせると、再びお互いの唇をあわせる。
その瞬間、わずかに残っていた「心残り」さえきえて、どうでもよくなった。
アナザールート・バッドルート
110話  最終決戦 後編   ♯
 冴華の拳が、総太郎の頬をかすめる。

「ぐっ!」

 クリーンヒットではない。冴華の技の出方から軌道を察知し、拳が飛んでくるのとは逆側に体をひねることで、どうにか受け流すことができた。
 だが、充分すぎるほどの衝撃があり、総太郎は自分が回転した方向にそのまま倒れ込んでしまう。

「ぐっ、うぅ……!」
「もらった!」

 冴華が飛びかかってくる。今度グラウンドに持ち込まれれば、完全にアウトだ。
 が、冴華はいきなりつんのめり、畳の上に膝をついた。

「なっ、え……?」

 冴華の顔に大きな戸惑いが浮かぶ。
 倒れた総太郎だが、気を奮い立たせ、すぐに立ち上がって攻撃に移る。

「うおおっ!」
「はっ!」

 冴華は慌てて立ち上がる。総太郎は突きを繰り出してゆくが、急いで打ったなんの工夫もない突きであり、冴華相手では避けられてしまう可能性は高かった。
 が、冴華はバックステップをしようとして、やはりバランスを崩して倒れかかる。

「な、なんでっ!」

 そこに、総太郎の突きが炸裂する。

 ドスッ!

「がふっ!」

 冴華は悲鳴を上げ、背中から畳に倒れた。
 腹に直撃したのだ。充分に腰が乗っていない突きだったが、それでも充分なダメージがあったはずである。

「げほっ、げほっ! くっ、そ、そんな馬鹿なっ!」

 冴華は立ち上がる。総太郎はなおも攻めかかった。これまでにないチャンスだ。

(ここで決めるんだっ、立て直す隙を与えるなっ!)

 総太郎は、ややふらつく脚を必死に動かして前に出ながら突きを連続で仕掛けるが、冴華はそれを軽快にさばいてしまう。さすがに技術は相当のものがあり、クリーンヒットを奪えないが、しかし冴華が隙を見て打ち返してくる攻撃に秘法の気配はなく、総太郎はラッシュで押し続けることができた。

(効いている!)

 そのまま攻めてゆく総太郎。突きのラッシュを見せてから、ふいにローキックを見舞う。

 ビシッ!

「あうっ!」

 冴華は防御しようとするが、一瞬間に合わずに左ふくらはぎのあたりにヒットする。

「ここだっ!」

 総太郎は、がくりと冴華の脚が折れたのを見て突きを放つ。クリーンヒットすればトドメになるような重い突きだ。
 が、冴華は総太郎の腰を入れた突きをさばきつつ、思い切ったように右足だけで後ろに跳んだ。
 総太郎は歯噛みする。

「くっ、焦ったかっ!」

 やっとやってきたチャンスだった。倒さねばならないと思ってモーションの大きい技を出してしまったが、結果的に冴華に余裕を与えてしまった。ここはスピードのある刹渦拳などを出すべきであったろう。
 が、総太郎もフットワークが充分でなくなってしまっており、足運びの鋭さが必須な刹渦の技をとっさに出せる状態ではなかったかもしれない。

「ふうっ……」

 とりあえず総太郎も危機は脱したのだ。それでよしとすべきであると意識を切り替え、ため息をつく。
 そして冴華は。さすがに、その顔には動揺が浮かんでいる。

「……ど、どういうこと? どうして、秘法が――」

 そう、冴華は秘法を使えていない。

「見えなかったようだな」
「な、なにかしたの?」
「わざわざ教えてやる義理はないだろう。自分で考えることだな」
「くっ……!」

 総太郎が冴華の左の鉤突きを受けたとき。とっさに右の抜手で冴華の脇腹を突いていたのだ。
 冴華がフック気味のパンチを打ってきたのを見て、チャンスだと思ったのだ。フックの軌道ならば、その下をぬうように打ち返せば相手には見えないはずであり、実際冴華に見切られず突くことができた。

(万が一にでも視力の秘法で見切られたら最悪だから、見られないような打ち方をしなければと思っていたが、どうやらうまくいったな)

 分の悪い賭けでもあった。あの鉤突きをかわせなければそれで負けていただろう。紙一重であったが、どうにか巻き返すための一手を打てた。
 蓄積されたダメージによって脚はがくがくと痙攣してしまうが、ためらっている場合ではない。総太郎は前に出る。

「いくぞ、今度は俺の番だっ!」
「うっ!」

 冴華は受けの構えを取る。自分の状態が分からず、戸惑っているようだ。
 総太郎は震える脚に活を入れるようにして前に出る。

「うおおぉっ!」

 柳影のステップから連続攻撃を繰り出してゆく。まだ秘法封じは効いているようで、冴華はそれらを普通にさばくことしかできない。
 しかし、前回は秘法なしでも総太郎と互角以上に渡り合った冴華だ。さすがに総太郎のラッシュも防御するだけならばできてしまうようで、なかなかクリーンヒットは奪えない。

(混乱しているだろうに、それでもここまでやるとは、さすがだぜ……だが、今の俺は秘法なしで止められはしないぞ!)

 総太郎も、前回の勝負では使えなかった鋭いステップを絡めて攻めていることもあり、徐々に押すことができてゆく。

「くっ、こ、こんな馬鹿なっ!」

 冴華が信じられないといった顔で攻撃をしのぐ。総太郎はそこで、テンポを一段階上げて踏み込みながら、スピード重視の鋭い突きを放つ。

 ガシッ!

「うあっ!」

 冴華のガードを弾き飛ばす。
 そこに、総太郎は用意してきた技を繰り出す!

「くらえ、双牙閃斧!」

 左のフックと右の中段蹴りを同時のタイミングで当てに行くという、蒼月の型に含まれる技だ。奥義ではないが、防御のしにくさでは斤木流の技の中でも際立った技である。だが体軸を保つのが難しく、総太郎はうまく打つことができたことはあまりない。
 が、このときは奇跡的なほどに腰を入れながら軸を乱さず打つことができた。

 ガシィッ!

「あうぅっ!」

 フックは防がれたが蹴りは直撃し、冴華の体がぐらりと揺れる。
 が、ダウンを奪うまではいかない。総太郎も次の技に移行するのに時間がかかり、取り逃がしてしまう。

「くっ、はぁ、はぁ……」

 冴華は息を切らせ、肩を上下させている。男女、そして体格の差による体力差は大きいのだろう、少し総太郎が攻勢に出ただけで今までの内容の差が急速に縮まる。
 冴華が知らない技を出すことは確かに有効だ。倉橋のアドバイスは正しい。明らかに冴華の対応力が働いていないのが分かる。
 が、これでトドメをさせるかというと、それも難しい。冴華の知らない技を繰り出すにしろ、そういうものは総太郎も充分な形で習得できているわけもなく、にわか仕込みの技ではフィニッシュブローにはなりえない。
 やはり、最も得意とする技で決めなければ、冴華に勝つことは不可能だと総太郎は思った。

(まだいくつか使えそうな技はあるが、あくまで補助で使うべきだ。さて、あとどれくらいチャンスがあるだろうか)

 間を置かず、総太郎は踏み込む。
 が、放った突きは冴華に軽々と受け止められてしまった。

「あ、使える……?」

 どうやら秘法封じは解けたようだ。

(もう終わりか。さて、また秘法封じを打ち込むことができるか?)

 それができるかは微妙なところだが、決めることができれば有利にやれることは確認できた。それだけでも収穫は充分だ。
 秘法の復活した冴華との攻防は互角で、いったん距離を取ると冴華はため息をついて汗を腕でぬぐった。どうやら秘法が使えるようになったことで、心の落ち着きを取り戻したようだ。
 そして、冷静になってしまえば、冴華は的確な分析をしてくる。

「ふうっ。なるほど、どうやらあなたが秘法を封じてきたのね。さっき、一瞬だけ脇腹に鈍い痛みがあったから、あれはツボを打たれていたってことかな」

 総太郎はさすがに驚く。
 黙っていると、冴華は表情も変えずに続けてきた。

「黙っているのがなによりの証拠ね。古武術らしいやり方だと思うけど、そんなものを奥の手に隠し持っていたなんて、あたしも油断したわ」
「……よく、分かったな」
「そういう技法があるということは知っていたから、思い返してみたら、なにをされたのか理解できたの。しっかし、秘法を封じる技を研究してくるなんてセンパイもやるじゃん」

 冴華はさすがに知識が豊富だ。総太郎がやったことは、あっさり看破されてしまった。
 ツボのポイントも悟られたということは、おそらくもう打ち込むことは困難であろう。通常ならば打つのが難しい位置のツボなのだから。

(まあいい、秘法封じは充分に役立ってくれた。冴華の動きも鈍っているし、あとは俺自身の力で勝つしかない)

 圧倒的な不利な状況は脱することができた。あとは勝つことだ。

「でも、もう二度と変な技は食らわないから!」

 冴華のほうから前に出てくる。総太郎にペースを渡したくないのが見え見えだ。
 総太郎もそれを迎撃しようと自分から踏み込む。ラッシュ合戦となるが、冴華の体力を消耗させたことで、先ほどまでよりは渡り合えるようになっている。

「でりゃっ!」
「くっ……!」

 総太郎はあくまで冷静に、しかし前に出ながら冴華のラッシュに対抗してゆく。
 本能の部分ではこれ以上なく攻撃的になっており、体はどんどん前に出たがっている。しかし頭は自分でも驚くほどクールだ。
 これ以上なく理想的な心身の状態をしている。そのおかげで、ここにきて総太郎は冴華とまったく互角の攻防をすることができている。

(いけるな。秘法封じがもう使えなくとも、俺は冴華に劣らない戦いができる)

 しかし、あくまで互角のレベルであり、押し切るにはまだ決め手が必要になるだろう。
 それをどうするか忙しく頭を動かして考えていた総太郎だが、先に冴華が動いた。

「ふっ!」

 冴華は打ち合いを嫌がり、総太郎のフック軌道のパンチに合わせて袖を掴んでいた。

(組技に来る気なのか?)

 と思ったが、自ら胸を総太郎の腕に押し付けつつ、のしかかるように肘打ちを打ってきた。

「うおっ!」

 まさか組んでからの打撃とは思わず、とにかく腰を回して掴みを振り払って避ける総太郎だったが――

「そこっ!」

 総太郎の体勢が崩れたと見てか、冴華はそこからさらに追撃の突きを打ち抜いてくる。

(こいつ、調子に乗りやがって!)

 明らかに総太郎にペースを渡したくないという思いから来た奇襲だ。だが、総太郎は冴華が思うほど体勢を崩してはいなかった。冴華にしては突きは工夫のないシンプルなものだったため、容易に避けると、同時に冴華の腕を脇に抱えてロックする。

「あ、ま、まずっ……!」

 今度は総太郎が冴華を捕まえた。そして、冴華の腹に膝蹴りを打つ。

 ドスッ!

「ひぐっ! ……ん、のおっ!」

 ガシッ!

「ぐふっ!」

 膝蹴りを腹に叩き込まれながらも、冴華も反撃の膝蹴りを総太郎の脇腹に入れてくる。

「くそっ、こいつ、さっさと倒れろっ!」
「こっちの台詞よ! いくら殴ったと思ってるの、しぶとすぎるのよ、あなたはっ!」

 二人は互いのしぶとさを忌々しげになじりながら、脚を止めての打撃戦を始める。
 そこからは泥仕合気味になってゆく。互いに早く相手を倒したいという意識が強く、ガードなどの受けの行動が弱くなる。
 総太郎の蹴りが冴華の太ももを打ち、同時に冴華の拳が総太郎の胸板を打つ。

「がっ!」
「あうっ!」

 二人同時によろめくが、どちらも倒れはしない。完全に互角の展開だが、総太郎は危機感を覚えていた。

(くそっ、あまりクリーンヒットをもらうのはまずい、今の冴華の拳は重い! せっかく接近戦やってるんだ、こうなったら乱戦に乗じて秘法封じを狙うかっ!)

 冴華がふいに鉤突きを放ってくる。それに合わせて抜手を出そうとする総太郎だが――寸前で思いとどまる。

(いや、ダメだ!)

 もう秘法封じは当たらないと思っていいだろう。狙いに行けば手ひどいカウンターを食らうことは間違いない。
 にわか仕込みの新技は得意技よりも打つときに余裕が必要だ。それが今や見出だせない以上、結局、もはや真っ向勝負をするしかないと総太郎は結論を得る。

(いいだろう、分かりやすくていい。秘法込みのあいつの力を、正面から破ってみせる)

 秘法も含めて冴華の力なのだ。総太郎は今こそ、正面から打ち破るつもりでいた。
 打撃戦が続き、互いにもつれたタイミングで、どちらからともなく互いの手を握り合って力比べの展開となる。

「ぐうううぅっ……!」
「あああああぁっ!」

 二人とも手に力を込めて相手を押し倒そうとするが、互いの力は互角で、二人の腕は動かない。
 が、次第に冴華の表情が辛そうに変化してゆき、汗もぽたぽたと頬から垂れてくる。

「かはっ!」

 冴華はついに耐えかねたように総太郎に蹴りを打ち、手を離してバックステップする。
 総太郎は違和感を覚えながらも、追撃に移る。

(これは、まさか……)

 試合は長引いている。しかも、冴華は前回と違い、途中から全開で秘法を使ってきている。
 秘法封じが入ったときから展開は互角となり、冴華が無理をしなければならない場面も増えていた。

(限界が来たのか?)

 だとすれば、ここは決めるチャンスだ。秘法を込みで倒そうという覚悟を決めてはいたが、別の要因で秘法が使えなくなったとなれば、それはそれでペースを掴むことができるかもしれないのだから都合はいいに決まっている。
 回復される前に詰めねばなるまい。そう思い、総太郎は前に出て圧力をかける。

「うりゃあっ!」

 気合を入れ、矢継ぎ早に連打を放ってゆくが、冴華はただ逃げるだけだ。総太郎の間合いを嫌って横にステップしてゆく。

「逃がすかっ!」

 この機を逃してはいけない、と総太郎は追いすがる。
 さすがに冴華も兎脚法なしで逃げられはせず、総太郎は冴華を道場のコーナー付近へと追い込む。

「うっ……」
「追い詰めたぜ、冴華っ!」

 さすがに冴華も余裕がなく、総太郎を油断なく見据えながら、どう切り抜けるか考えを巡らせているようだった。
 総太郎はじりじりと間合いを詰めてから、ラッシュをかけにいく。

「せえぇいっ!」

 気合とともに重い突きを連続で放つ。冴華はそれらをなんとかさばきつつも、追い詰められているためにフットワークで逃げることができず、あからさまにやりづらそうにしている。

「こっ、こいつ、調子に乗って!」
「悪いが、ここで決めさせてもらうぜっ!」

 総太郎は必死で前に出ながら、冴華の脚をローキックで痛めつける。ローキックという技はモーションが小さくカウンターを合わせにくい上、相手の戦闘能力を削ぐのに適している。こういう追い詰めたときには特に有効な攻撃だ。
 もちろん、冴華はなにをしてくるか分からない。総太郎はあくまで慎重に、腕をはじめ防御はしっかり固めつつローキックを打ってゆく。

「あうっ! くっ……!」

 冴華もガードしようと脚を上げるのだが、それでもローキックを受けるたび苦悶の表情を浮かべ、苦痛に喘ぐ。
 フットワークを殺しておくことは重要だ。兎脚法を持つ冴華が相手となれば尚更である。

「うぅ……」

 冴華が顔をしかめ、脚を震わせているのを見て、総太郎はようやく思い切った攻めに出る。
 まず、刹渦衝にいくと見せかけてから蹴りのフェイントを入れる。ローキックで打たれていた冴華は、それに反応して脚を上げてしまう。
 その状態で素早く動けるはずもない。総太郎はすかさずスムーズな足運びから左の刹渦衝を放つ。

「はあぁっ!」

 ガードされたとしても、冴華の体格ならば弾き飛ばせる。この位置ならば壁に叩きつけられて大きなダメージを負うはずだ。
 勝負どころと見て、思い切って決め技を繰り出しにゆく総太郎。
 だが、冴華はふいに体を沈み込ませる。

「うっ!?」

 刹渦衝の軌道が読めているとしか思えない動きだ。総太郎の拳が打ち抜く線上から体をずらしながら沈み込み、そこからなにか技を出そうとしているのが分かる。

「せやああぁぁっ!」
「し、しまっ……!」

 冴華の脚が、すさまじい勢いで総太郎の側頭部へとムチのようにしなりながら放たれる!

 ガシッ!

「がはぁっ!」

 クリーンヒット。ハイキックが完璧に入ってしまった。
 どうやら燕撃斧のように上方向に打ち抜く動きに、腰のひねりを組み合わせたハイキックであったようだ。スピード、威力ともに申し分のないものだった。

「や、やったっ!」

 冴華が勝利を確信したような、喜悦に満ちた笑顔を浮かべる。それで当然であろう、そのくらい致命的な一撃であった。

「誘いだと見抜けなかったようね! 綾子さんほどに使えないけれど、あたしもわずかな時間なら視力強化ができる。ここ一番であなたの技を見切るために、温存しておいて正解だったわ」

 やはり――と総太郎は思ったが、後の祭りだ。
 冴華も死に体であることは間違いなかったであろう。が、それを悟られていることを計算に入れて総太郎を誘い込み、カウンターを決めたのだ。残された力を振り絞るような、秘法の使い方だった。

「あ、ぐ……」

 がくがくと総太郎の脚が震える。ハイキックは総太郎の三半規管を揺さぶり、なにより前への踏み込みにカウンターで合わされたのだ、打撃の強烈さは推して知るべしである。さすがに意識が一瞬飛びかけた。
 だが――

(た……倒れるわけには、いかないっ!)

 これまでの稽古、そして勝負の場面がフラッシュバックする。姫乃や優那との勝負、味わった屈辱、そして涼子をはじめ、かつてのライバルたちと競い合いながら、自分を高めてここまでたどり着いたのだ。
 その積み重ねを、無にするわけにはいかないのだ。その意地が、総太郎の脚をギリギリのところで支える。

「う……おぉっ!」

 総太郎は無我夢中で、突きを繰り出す。

「なっ!」

 冴華は驚いたように後ずさった。

「い、今ので倒れないの? まさか、すごい手応えだったのに!」

 信じられないといったような顔。
 冴華の顔に、初めて恐怖の色が見えた。それが総太郎の心を奮い立たせる。
 冴華は追撃をしてこなかった。しなかったのではなく、できなかったのであろう。冴華も脚が震えてほとんど動けないでいるのが分かる。
 前に出るしかない。総太郎は限界を迎えつつある体を必死に前に運ぶようにして、踏み込む。

(もう、ごちゃごちゃ考えてられない。やれることはひとつだけだ……)

 総太郎の体はほとんど自動的に動いているかのようにスムーズだった。右で踏み込みながら左で体を押し付けるように拳を打ち、左足が着地したと同時に左前方へとステップし、右の回し蹴り。

 ガシッ!

「あっ、ぐっ!」

 冴華もフットワークが死んでおり、受けるしかない。なんとか総太郎の技をガードするが、ガードの上からでも苦痛がある様子なのは明らかだ。
 さらに総太郎は、小さく半歩だけ後ろに下がってからの後ろ回し蹴りを放ち――

「くうっ!」

 冴華にガードさせて動きを止めたところで、ワンツーの突きで攻める。

「こ、この……こうなったら、あたしだって……!」

 だが、冴華も死に物狂いの表情で応戦してくる。総太郎の突きに対してカウンターを狙い、首を小さく動かして突きをかわしながら踏み込みながらの肘打ちを当ててくる。

 ガスッ……!

「がっ……!」

 胸板を打たれる。しかも、技には鋭さが戻っていた。
 総太郎はさすがに驚く。先ほどまでの攻撃で、少なくとも脚は死んだはずなのだ。なのにここまで鋭く踏み込んで技を当ててくるとは。

「まだこんな動きができるとはっ……!」
「はぁ、はぁっ……ここまできて、あたしも負けるわけにはいかないもの……ここまでさせられるとは、思っていなかったけれど……」

 震えていた脚が、しっかりと畳を踏みしめている。

「あたしは、昔から伝えられていた秘法とは別に、オリジナルの秘法を組み上げるための暗示法も少しは使える。前回の勝負でも、最後にそれを使わせてもらったけどね」

 忘れもしない。総太郎の起死回生の反撃を潰した、あの無茶なスウェーバックの動きのことだろう。

「あれとはまた違うけれど、今は疲労やダメージを麻痺させる秘法を即席で組んだ。これで、さっきあなたを圧倒したときの動きを、あたしはまだ行使することができる」

 後にどんな後遺症が出ることか。総太郎にも、その恐ろしさは察することができる。
 だが、後のことなど考慮してはいられないほど、冴華も勝利への執念を燃やしているということだ。

「暗示の組み上げや組み換えは神倉流初代が使用を禁じた、いわゆる禁術だけどね……これがあたしの本当の奥の手。今度こそっ、あんたに勝ち目はないっ!」
「そんなものを持ち出していたのか。だが、そんなことを聞かされたところで、今さら俺が怯むとでも思ったか」

 普通に考えれば、先ほど総太郎を圧倒したときの動きを冴華ができるというのなら、消耗した今の総太郎には勝ち目がないはずである。
 だが、不思議と総太郎は負ける気がしなかった。

「せいっ!」

 総太郎は構わず前に出て、気合とともに突きを放つ。だが冴華も本人の言の通り、万全の動きで総太郎の攻撃をさばこうとしてくる。

「ふっ!」

 そして、その合間をぬって剛力法の乗った重い突きを返してくるのだ。

 ガシッ!

「ぐっ……!」

 肩口に反撃の突きを受けて、総太郎は顔をしかめる。
 が、もはや構っていられない。総太郎は小さなモーションの斜打を打ちつつ、同時に冴華が連続で打ってきた突きを左腕でガード。
 その次の瞬間には、右にステップしていた。その動きの無駄のなさに、冴華は目を見張る。
 さらに、そこからの総太郎の蹴りと冴華の突きが交錯した直後、総太郎はもう次の技のモーションに入っていた。

「な、なんてスムーズな動き……こいつ、ここにきて動きが、違ってきてる……?」

 冴華は総太郎のフットワークについてこられない。
 今の総太郎は満身創痍なせいであるのか、最小の力の入れ方で最大の動きをしようと、体が自然と対応しているのかもしれない。ステップは恐ろしいほどに自然で、いつ脚を踏み出したのかが冴華にも見えていない様子であった。

「な、なに、この動きはっ! み、見えない!」

 視力を強化しているかどうかは分からない。が、たとえその秘法を使っていたとしても、総太郎の動きを見切ることはできなかったであろう。見てから反応していては必ず遅れを取る、そういう動きを総太郎はしている。

(この感覚――これが、柳影の極みなのかもしれない)

 流れる水と化したかのように、総太郎は本能に従ってステップと打撃を繰り出してゆく。今まで体に染み込ませてきた型の動きが、理想的な形となって現れている。総太郎の勝利への執念が、そうした動きを引き出しているのだろう。
 加えて――

「せいっ!」

 冴華も総太郎の動きが一瞬止まったところに突きを合わせてくるが、総太郎はそれが繰り出される気配を察知して、それを受け流せる方向へと先にステップしている。結果、冴華の突きを左手で軽々と受け流しつつ、同時に、総太郎の突きが繰り出される。

「うっ!」

 冴華はそれをなんとかガードするが、ガードしていては当然反撃には移れない。

(この、動きなら……できるのか、先の先、その戦い方が)

 自分の動きが鋭くなるのに合わせ、神経も研ぎ澄まされているのが分かる。
 あの致命打になりかねなかった蹴りを受けて、開き直ったせいなのか。総太郎は、冴華の動きを察知しつつ、先に攻撃的な動きを合わせるように動いている。
 柳影の極み、そして先の先。それは両輪と言ってよいもので、どちらが欠けても今の総太郎の動きは成立し得ない。
 達人との手合わせや、数々の勝負で磨いてきた総太郎の、それは成果だった。

「なっ、なんでこんなっ、う、受け流される……!」

 冴華の攻撃はクリーンヒットせず、総太郎は彼女に技を当てることができている。
 だが、どこかでトドメをさしにいかねばならない。総太郎もすでに限界を超えているのだ。

(どこかで一撃を決めにいくんだ。俺の持てる、最高のものを)

 そして、総太郎はいくつものステップフェイントを入れて冴華を惑わせ、苦し紛れに打ってきた蹴りを小さく受け流しながら、右の鉤突きを放つ。

「ぐっ!」

 冴華はガードするが、フェイントに惑わされて充分な体勢でのガードができなかった。打たれて後退する。
 間合いが少し開いた。そこに、総太郎は今まで培ってきた柳影の型の動きそのままに、前に出る。

「ここだっ! 冴華、これで終わりにしてやる! 覚悟っ!」

 出すべきはもちろん刹渦衝。自然体に握られた右拳が、総太郎の腰元から打ち出される。

「今さら刹渦衝があたしに通じるかっ! 最後に勝つのは神倉流だっていうことを、あたしの拳で証明してやるっ!」

 冴華もここにきて総太郎の覚悟を察してか、見事に技を合わせてきた。
 それは奇しくも、鳥居での勝負で美耶が放ってきた、神倉流が受け継いできた突きだった。秘法の力を乗せて、まっすぐに放たれてくる。

「うりゃあああぁぁっ!」
「でやああああぁぁぁっ!」

 そして、総太郎の右拳は、冴華の左腕に受け流される。

「ぐっ……!」

 受け流したとはいえ、冴華の腕には相当の衝撃があったはずだ。だが、とにかくも受け流した。
 総太郎の必殺の一撃をどうにかして逸らしつつ、同時にカウンターの突きを入れるために、こんな無茶な防御行動を取ったのだった。

「勝ったっ!」

 冴華の右拳はあやまたず総太郎の腹へと鋭く飛んでいる。兎脚法の勢いを土台にした突きだ。それが美耶の使っていた神倉流本来の技であることを、総太郎は見て察する。最後は神倉流の技で斤木流を打ち破りたいという思いが出たのだろう。
 今までの冴華のものよりも鋭く速い突き。刹渦衝を受け流された直後の総太郎には、避ける余裕はない――

「……っ、おおおおぉぉぉっ!」

 雄叫びを上げる。
 この状況を打ち破る方法が総太郎の頭に閃く。その瞬間、総太郎の体軸は左右逆に反転していた。
 そして、左の掌底が冴華に向かって繰り出され――二人の腕が交錯した!

 ドスッ!

「が……がはっ……!」

 冴華の拳が、総太郎の腹に深く突き刺さった。
 梁瀬美耶が使ったものと同じ、鋭い二段突き。兎脚法の踏み込みから繰り出されたそれは、総太郎の左の突きよりも一瞬速く相手の体へと届いたのだ。

「おぐっ、うっ……」

 必殺の一撃を繰り出していた総太郎は、前へと鋭く踏み込んでいた。そこにカウンターの形で冴華の技がクリーンヒットしたのだ。
 総太郎の体はがくりと前へ崩れ落ちる。立っているだけでギリギリの状態だ。冴華はそして、すかさず追い打ちをしてきた。

「はああぁっ!」

 冴華の膝が総太郎のボディに突き刺さる!

 ドスッッ!

「がはあああぁっ!」

 突きを受けたばかりのところに再び強烈な一撃。それは、総太郎がかろうじて踏ん張っていた両足から力を奪うには充分すぎるものだった。
 そして、畳の上へと膝から崩れ落ちた。

「あ……ぐ……」

 視界がちらつく。総太郎は、下半身のみならず全身から力が抜けてゆくのを感じていた。
 互いに全身全霊を込めた一撃を繰り出していたのは明白。それが自分にだけ当たってしまった時点で、総太郎の意識の中の理性的な部分はほぼ負けを悟っていた。ただでさえ、そこまでに受けたダメージも大きく、ギリギリで戦えていたような状態だったのだ。

「そ、そんなっ……なぜ……」

 見上げると、視界には片腕を支えるようにしながらやっとの状態で立っている冴華の姿があった。彼女も満身創痍だったことが分かる。

「はぁ、はぁ……どうやったのか知らないけど、体軸が反転してたように見えたわ。けど、そこから突きが繰り出されるのが一瞬遅かった……急な方向転換に、腕がついてこなかったのかもね」

 息を乱しながらも、冷静な冴華の声。彼女は総太郎のそばまでゆっくり歩いてくると、少し膝を折りたそうな仕草をしたが、それでもしっかりと両足で立って総太郎を見下ろしてきた。

「まったく、最後まで手間をかけさせてくれたけど……最終的には、あたしの技が勝ったわね」

 安堵感からか、冴華の顔には笑みが浮かんでいる。

「この土壇場であんな動きができるようになったことは褒めてあげるけど、ぶっつけ本番で新しい技を繰り出したところで、そんなのがあたしが今まで磨いてきた技を上回るわけがないじゃない」

 そして、冴華は総太郎に向かって人差し指を突きつけてきた。

「これであたしの勝ち! 認めてもらうわよ、斤木総太郎!」
「うっ……」

 ここで負けるわけにはいかない。勝負の前に取り交わした条件で、総太郎が負けたら斤木流は解散することになる。
 ここで負けるということは、総太郎が流派の長として終わってしまうことを意味する。いや、斤木流そのものが神倉流に対して完全に屈服するということになるのだ。
 それを思うと総太郎は屈するわけにはいかない。だが……

「くっ、ま、まだ俺は……」

 両手を畳についた状態だ。このまま両手を支えにして立ち上がろうと総太郎は試みる。
 だが、両足が震えて腕にも力が入らず、立ち上がることがどうしてもできない。

「ま、負けるわけには……いかないっ……」

 認めたくない一心で立ち上がろうとする。その気持ちに、しかし体はついてこなかった。
 がくがくと震える両足をなんとか立たせようとして失敗して崩れ落ちる、それを繰り返していると、冴華が鼻で笑ってきた。

「ふっ、無様な姿ね」

 そして、何度目か、畳の上に膝をついて四つん這いの状態になると、総太郎は憔悴しきってしまっていた。

「がはっ、はぁ、はぁっ……」

 もはや、立ち上がる力は残っていないのだ。そのことを悟ると、悔しさが胸に満ちてくる。

「う、うう……だ、ダメなのかっ……」

 がっくりとうなだれる。必勝を期した渾身の一撃が届かなかった時点で、総太郎の戦う力はすでに失われていたのだ。
 そんな総太郎を見下ろして、冴華はようやく笑みを漏らした。

「ふふっ……やったわ。ここまできて打ち破られたなら、さすがにもう負けを認めざるを得ないようね」

 そして、冴華はふいに総太郎の体を乱暴に蹴飛ばした。

「ぐはっ!」

 蹴飛ばされて大の字に横たわった総太郎。その胸板を冴華が乱暴に踏みつけた。

「ぐっ」
「あたしを倒すために頑張って頑張って、必死にここまでたどり着いたっていうのに、結果はやっぱり返り討ち。あたしを倒すために重ねてきた努力が全部無駄に終わっちゃって、さぞ悔しい思いをしてるでしょうね。ふふっ」

 今回は間違いなく、今までの冴華との勝負の中で最も勝利に迫っていた。だが、それでも彼女には届かなかった。
 多くの人の助けを得て、総太郎は強くなった。しかし、それを上回る実力を冴華は見せつけ、こうして総太郎を踏みつけて見下ろしてきている。
 始めから、格闘家としての才に差がありすぎたのではないのか。格の違いを見せつけられたような絶望感を味わわされて、総太郎はうめく。

「ううっ……く、くそっ……」

 やるべきことをやって、最高の舞台を整えた上で挑んだ決戦。それだけに、この敗北は今まででも特別に悔しいものだった。
 男としての悔しさならば、今までも同等のものを味わっていた。だが、今日のものは格闘家として、自分の限界を思い知らされたようなものだ。絶望感は今までで最大のものがあった。

「さあ、はっきりと自分の口で負けを認めなさい。あたしを見上げながら、悔しさを噛みしめるようにしてね。ほら、まさか認められないってことはないでしょう?」

 そう迫ってくる冴華。総太郎は、冴華の均整の取れたスレンダーな体を見上げながら、その言葉を口にする。

「お……俺の、負けだ……」

 その瞬間、総太郎の目尻に涙が滲む。
 この屈辱感は終生忘れることはないように思えた。冴華の体重を胸板に感じながら、総太郎は冴華が言ったように悔しさを噛みしめる。
 それを見下ろして、冴華はニヤニヤと笑った。

「そう、その顔。あたしはあんたが心から絶望した、そういう顔を見たくて格闘技を続けていたようなものなのよ。ふふ……満足だわ」

 冴華はぐりぐりと総太郎の胸板を踏みにじる。そうされるたびに、総太郎のプライドがすり潰されてゆくかのようだった。

「あ、あううっ……」
「だからもっと早くあきらめればよかったのよ。どうせあたしには勝てないんだから」

 そう言って小さく舌を出す冴華。なまじ可憐な容姿をしているだけに、勝ち誇られてしまうと屈辱感も大きい。
 だが、勝ち誇らせておくことしか今の総太郎にはできなかった。
 やがて、冴華は踏みにじることに満足したのか、ふっと息をついて一歩体を引く。

「さあて、あなたを屈服させたら絶対にやっておきたいと思っていたことがあるのよね。斤木流の当主としての完全な敗北を味わわせてあげるわ」

 そう言って冴華は道場の脱衣所に引っ込むと、何かを抱えてすぐに戻ってきた。
 それは総太郎にも見覚えがあるものだった。古い一枚板のそれは――斤木流道場の看板だった。

「どうして、それを」

 端正な顔にニヤニヤと笑みを浮かべている冴華。総太郎に返すつもりで持ってきたのではないことは明白だ。
 そして、総太郎は冴華が何をするつもりなのか悟った。総太郎の心を折るために、そして自分が気持ちよくなるために、この場で斤木流の負けをこれ以上ない形でつきつけようというのだ。
 冴華がなぜ今の今まで斤木流の看板を保管しておいたのか。考えてみれば、いつ処分しようが彼女の勝手であったろう。
 それは、このときのためであったのだ。

「ま、待っ」

 冴華の鋭い蹴りが一閃し、看板は空中で乾いた音を立てて真っ二つに割けた。
 そして、床に落ちた板をさらに足刀で踏みつけて粉砕する。冴華の足元でバラバラに砕けた斤木流道場の看板を見て、総太郎は呆然とする。真の意味で斤木流が神倉流に、そして総太郎が冴華に屈した瞬間であった。

「これで斤木流はこの世から消滅したわ。少なくとも、あなたを当主とした斤木流はね。今の光景を目の当たりにすれば斤木総吉もさぞ悔しがるでしょうね、最高の気分だわ」

 愉悦に満ちた笑みをたたえ、うっとりと状況に酔っているような様子の冴華。ここまで勝ち誇られ、踏みにじられても、負けた総太郎には何もできない。
 格闘家としての誇りを蹂躙されるがままでいるしかないのだ。やがて、悔しさよりも絶望感が上回り、自分の中から急速に闘争心と気力が消えてゆくのを感じる。

(俺はついに、こいつには及ばないのか……あれだけやって駄目なら、もう、何をしても勝てない……)

 一度として冴華に勝つことができなかった自分の不甲斐なさに、格闘家としての自分はここが限界なのだろうと思わされる。今日は自分の実力以上の動きを繰り出せた感覚もある。その上で負けたのだから、どうしようもなかった。

「もう逆らう気力もなくなったみたいね。とはいえ、あなたは何度叩いてもしつこく立ち上がってくる男だし……斤木流の解散を約束させたと言っても、流派と関係なくあたしへのリベンジを志して挑んでくるかもしれない」

 冴華は、総太郎は再起する可能性がまだあると感じているようだ。

「この機会に、もうどうあっても逆らえない立場にしてやるしかないわね」
「……これ以上、俺をどうする気なんだ……?」
「まあ、まずはひとつ、こっちの方でも格の差を思い知らせてあげる。あなたはまた、自分を負かした女に犯されてよがり狂うことになるのよ」

 そして、冴華は着ているタンクトップに両手をかけて脱いでしまうと、スポーツブラとスパッツだけの姿になった。

「天国を味わわせてあげるわ。いえ、あなたにとってはあたしから与えられる快楽なんて地獄なのかな?」





 スポーツブラとスパッツも脱いでしまい、全裸になった冴華は、倒れたままの総太郎にのしかかってきた。
 冴華の引き締まった、それでいて柔らかそうな肢体は相変わらず男の性欲をそそらせる。嫌いな相手であっても、綺麗な体であることは間違いなく、総太郎はどうしても冴華の裸を目にすると心臓の鼓動が速くなるのを止められなかった。

「さてと、じゃあ服をはだけさせて……」

 冴華は総太郎の道着の前をはだけさせると、中の肌着を首元までずり上げて、総太郎の胸板まで露出させる。
 そして下半身も、ズボンとトランクスを脱がせてペニスを露出させた。冴華に脱がされて、総太郎は羞恥を刺激される。負けた直後とあってはなおさらだ。

「くっ……」
「相変わらず、しっかり鍛えられたいい体をしてるわね。こういう男を犯すのは、女としてたまらない優越感があるから好きなのよねー。屈服させた今だから言えることだけど」

 笑みを浮かべる冴華。近くで顔を見ると、意志の強そうな瞳に射抜かれるような感覚に陥る。相変わらず整っていて綺麗な顔立ちだ。
 だが、彼女がそんな可憐な少女だからこそ負けたことが悔しくもなる。体を見ても男と比べれば明らかに華奢であり、男よりも絶対に身体能力では劣るはずなのだ。それなのに、この少女に総太郎はついに勝てなかった。

「じゃ、勃起しなよ」

 そう言って、冴華は総太郎のペニスの裏筋を指先でつうっとひと撫でした。

「ううっ!」

 すると、総太郎自信が驚いてしまうほどに、ペニスはあっさりと膨らんでゆく。

「ふふん、相変わらずここは弱いね。格闘では手こずらされたけど、セックスは今日も圧倒できそうかな」

 冴華はそう言うが、総太郎はセックスの面でも前回よりはよほど鍛えられてきたはずなのだ。事実、美耶なども圧倒した上でここに来ている。
 が、冴華に屈してしまったばかりということが響いているのだろう。総太郎自身、今までにも身に覚えがあることだった。女性に負けてすぐ性的なことをされると、気後れしているせいもあって性欲を刺激されることに抵抗できない。

「あなたはこれから、斤木流を滅ぼした憎い女に欲情して、精液をいっぱいぶちまけちゃうことになるのよ。気持ちよさと悔しさがいっぺんに襲ってくる感覚、今回もたっぷり味わうといいわ」
「くっ……」
「でも、前回とは少し趣向を変えるけどね」

 そして、冴華はゆっくりと顔を近づけてくると、そのまま総太郎の唇を奪った。

 ちゅうっ……

「むぐっ……!」

 唇を重ねられた瞬間、総太郎の心臓が激しく脈打った。
 心地のいい柔らかな唇の感触。嫌いな女相手のキスなど、普通に考えればいい気分になるはずもないのだが、冴華の唇は恐ろしく男の情欲に訴えかけてくる感触をしていた。

「う、うう……」
「ふふっ……」

 そのまま、冴華は右手で、総太郎のペニスをそっと握り込むと、上下に刺激してくる。

 しゅっ、しゅっ……

「ぐっ、むぐっ、うっ……!」

 強くもなく弱くもなく、絶妙な強さの手コキ。それを、キスの感触と同時に味わわされる。
 とても冴華の責めとは思えない、心地よさで男の感覚を痺れさせるような性行為だった。総太郎の鼓動はどんどん加速してゆき、唇に伝わる冴華の暖かな唇の感触も相まって、体の感覚が快楽に堕ちてゆくのが分かる。

(う、ううっ、そんな……こんな、心地いいイかされかたをしちまうのか……)

 苦痛を伴う射精を強いられるよりも、それはある意味では抵抗があった。冴華の責めで心地よくなどなりたくはない、そう思っていたが、彼女の責めに耐えることはできず、どんどん射精感を高められていってしまう。

 ちゅっ、ちゅうっ……

「んぐっ、うっ、んううっ」

 キスの感触が総太郎の意識を惑わせ、性的な快楽を加速させてゆく。
 そして、そのまま手コキをされ続け、ついに……

 しゅっ、くにっ、くにゅっ……

「むぐっ、うぐううぅっ!」

 びゅくっ、びゅくっ……! びゅるっ、びゅっ、びゅううっ……

「ぐっ、うっ……」

 射精の快感に総太郎の体はがくがくと震える。射精感が頂点に達しそうなタイミングでちょうど亀頭を揉むように刺激され、見事に絶頂させられた。総太郎の体の快感を完全に把握しているかのようなタイミングだった。
 心地のいい絶頂に、総太郎は屈辱と快楽が相半ばする感覚の中で身悶えしていた。いまだ、意識には抵抗の気持ちが残っており、冴華から与えられる快感を心地よく感じたくないと思っている。
 だが、そんな抵抗も――

「ん、んっ……」

 にゅるっ……

「う、うぐっ……」

 射精の余韻によって体が快楽でしびれるようになっている総太郎。そこに、冴華はついに舌を総太郎の口内に滑り込ませてきた。
 柔らかく吸い付くような冴華の舌が総太郎の舌に絡みつき、激しく刺激してくる。

 じゅぷっ、れろっ、にゅるっ……ちゅっ、ちゅぷっ、じゅるっ……

(あ、あぁ……な、なんだ、こいつのキス……舌から体に痺れが伝わっていくみたいで、体の力がどんどん抜けていく……)

 抵抗の気持ちが失われてゆくようだ。もともと勝負に敗れた時点で気力のほとんどが失われていたが、残っていたかすかな闘志も消えていってしまう。
 前回の、無理やり犯して精液をすべて搾り取るような、苦痛をともなく性行為とはまったく違っていた。

(そもそも、こいつとキスすることになるなんて……)

 今まで冴華からは何度も性的な責めを受けたが、キスだけはされたことがなかったのだ。それは彼女が総太郎を嫌っていることの証であろうと思われたが、しかし、勝負のついた今ならばやってもいいということなのだろうか。
 そして、ディープキスをしながらリズムよく冴華が手を動かしてくる中、総太郎の射精感は再びあっさりと限界を迎えてしまう。

「ぐっ、むぐううぅっ!」

 びゅくっ、びゅるるっ……!

「ぐっ、うっ……」

 二度、三度と精液を噴射するたび、総太郎の体も揺れる。冴華と舌を絡ませ、唇の柔らかさを味わわされながらの射精は、信じられないほどの心地よさがあった。

(あ、ああっ……心地よすぎる……けど、こんなっ……)

 ディープキスで増幅された性感の中での射精、その余韻が体中に伝わってゆくのを感じて震える総太郎。
 が、そのタイミングで冴華が突然、総太郎の舌を激しく攻め立ててきた。

 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅるっ、ちゅううぅっ!

「んぐっ、ううっ!」

 びゅっ、びゅくっ! どびゅうっ、びゅっ、びゅるっ……

「ぐっ、あっ、ああああぁぁ……」

 総太郎は舌と唇の粘膜を責められて、あっさりと連続射精に追い込まれた。射精の余韻に浸っていた中の連続射精はあまりの快感で、総太郎は両目がひっくり返ったようになり、だらしなく緩んだ表情になってしまっている。
 そんな総太郎の顔を見下ろして、冴華はゆっくりと舌を引き抜き、唇を離す。

「ふふっ……あんたをぶっ倒した手で敗北汁いっぱい出させるの、すっごい楽しい♪ 情けないイキ顔を見るのもいい気分だし、やっぱあんたとエッチなことするの結構好きだわ」

 冴華の端正な顔にかすかな興奮の色があり、それがまた総太郎の心臓の鼓動を加速させる。先程まで殺気をぶつけ合っていたことすら忘れてしまいそうなほど、総太郎はなぜか冴華の姿に魅力を感じてしまっていた。

「キス程度でこんなにとろけちゃうなんて、案外だらしないわね。まあ、負けたせいで弱気になっているからこそなんだろうけど。あたしが植えつけた女性恐怖症も、すっかりぶり返したみたいね」

 冴華に負ければぶり返す。それは前回もそうだった。
 そして、今回は涼子に癒してもらっても回復することはないのではないか。なぜか確信的に、総太郎はそう感じた。

「手コキだけで精液絞り尽くしちゃうのももったいないし、このくらいにしといてあげる」
「はぁ、はぁ……」

 冴華はなおも右手でペニスをさするようにして弄んでくるが、射精はさせないように弱い刺激だけにとどめているようだ。が、その柔らかな手の刺激で、総太郎はじわりとした快感を覚え、身動きが取れなくなる。
 小さく刺激を与え続けることによって、総太郎が万が一にも反抗することを封じているのだ。この性の技術ひとつを見るだけでも、性行為では格闘技以上に勝ち目がないことが分かる。

「くっ、うっ……」

 微妙な性感だけ与えられ続けている状況は、気持ちはいいが絶頂まで到達できないもどかしさがあり、精神的につらくなってくる。が、冴華はその刺激をふいにやめて、総太郎の上にのしかかってきた。

「うぐっ」

 心地のいい重みを感じて、総太郎は思わずうめく。

「いじめようと思えばいくらでもいじめてあげられるけど、今日はそういうことはしない。ちゃんと気持ちよくしてあげるからね」

 どういう風の吹き回しなのか、確かに今日の冴華は総太郎をしっかりと気持ちよくしてくれている。責め苦を与えようという感じでもなく、幸福感を味わわせようとするような性行為だ。相手が冴華ではもちろん素直に喜ぶことはできなかったが、キスも手コキも男を壊そうとするような今までのような厳しさはまったくなく、こんなやり方ができたのか、と総太郎は意外な思いだった。

「じゃ、挿れるよ」

 ペニスの上にまたがり、腰を落とそうとしてくる冴華。どうやら、もうセックスを始めるようだった。
 上から迫ってくる、冴華の均整の取れた裸体。抱きしめればさぞ心地良い感触が味わえるのだろうと思う。そして、ペニスを飲み込もうとしている膣も、極上のものであることを総太郎はすでに思い知らされている。
 快楽の予感に胸は高鳴るが、冴華にこれ以上快楽を味わわされてしまっていいのかという抵抗感が総太郎にはまだ残っていて、素直に冴華との行為を受け入れられるはずがなく、その思いが顔にも出ていただろう。冴華は総太郎の顔を見て、ふっと笑った。

「あのキスも充分心地よかったはずだけど、まだあなたは堕ちてはいないみたいね。ま、これまでのことを考えれば当然かもだけど……少しぐらい抵抗の気持ちが残っていたところで、あたしとのセックスの前では全部無駄よ。あなたは今から、本当の意味で堕ちることになる」

 そして、冴華はひとつ舌なめずりをすると、ゆっくりと腰を落としてきた――

 ずっ……ずちゅうううぅっ……

「くっ……あ、あああぁぁ……!」

 温かで、刺激の強い膣肉。それがペニスを飲み込んでゆき、膣壁とペニスとが擦れ合う感触が走る。
 柔らかなヒダによって強めに撫でられる感触は、総太郎の今の忍耐力で耐えられるようなものではなく、あっさりと絶頂させられてしまう……!

 びゅくっ、びゅっ……どぷっ、びゅくっ……!

「うあっ、あっ、ああぁっ!」
「あはっ、まだ全部入ってないのに射精しちゃってるんだ。さすが、早漏だけはどう頑張っても治らなかったみたいね」

 それだけは、性行為で鍛えても完全には治癒しなかった、おそらくもともとの総太郎の体質なのだった。今までどれだけ、それが女性との勝負で災いしたことか。
 冴華はかさにかかって早漏を嘲笑してくるかと思われたが、意外にもそういう雰囲気ではなかった。

「でも気にすることないわ。早くても数がこなせるなら問題ないんだし、その点ではあなたはとても優秀だし」
「え……」
「あたしも膣内に射精される感覚は嫌いじゃないしね。今日は、あたしもたっぷり気持ちよくさせてもらうわよ」

 そして、ペニスは冴華の膣の一番奥まで挿入された。

 ずちゅうううぅっ……

「は、はうぅっ……」

 びゅくっ、びゅるっ……

 一番奥にペニスが到達するまでに、さらにもう一度射精。総太郎は甘い快楽に体を小さく震わせる。
 これで、冴華の恐るべき膣にペニスが完全に囚われてしまった。どう扱おうとも冴華次第、彼女がその気なら総太郎を壊すまで解放することもないだろう。

「くうっ、うっ……」

 冴華の膣内はほどよい締めつけで、総太郎のペニスには常に温かな圧迫感がかかっている。

「気持ちよさそうだねー。ま、神倉流の房中術では自由自在に膣圧を操るのは基本みたいなもんだし、今までの経験であんたが気持ちよく感じる膣圧も把握してるから、今はすっごく心地いいはずだよね」

 事実、ペニスに伝わる膣肉の感触の具合のよさに体を震わせるばかりで、言葉を発することすらできない。このまま冴華が一切動かずにいるだけでも、そのうち射精してしまうことだろう。

(き、気持ちよすぎるっ……こいつの膣、どうなってるんだ……本当に、俺にちょうどいい締めつけの強さを完璧に把握しているんだ)

 それが把握できていたとして、その強さを完璧に保てる冴華の技量の尋常なものではない。

「斤木流にも性技ぐらいあるでしょうけど、それを身につけることができていたとしても、この状況じゃどうしようもないわよね」
「ううっ……」
「さて、手始めにひとつイかせてあげる。えいっ」

 可愛らしく両脇を締めて胸を強調するポーズをしながら、冴華は膣を一瞬、強く締めつけた。

 ぐにゅううぅっ……!

「あ、ああああぁぁぁっ!」

 どびゅうううぅっ! どぷっ、びゅくっ、びゅるっ……!

「ひぐっ、あっ、あぐううぅっ」

 背筋を反り返らせ、激しく絶頂する総太郎。絡みついた膣肉がペニスを強烈に締め上げて、精液を激しく噴出させる。
 美しい丸みを帯びた冴華のおっぱいや、彼女の端正な顔を見上げながらの一方的な射精は、総太郎に強い屈辱感と敗北感をもたらした。

(だ、だめだ、かなわない……俺はこのまま壊されるしかないのか……)

 快楽とともに、恐怖が総太郎の心を侵食してゆく。それを察したのか、冴華は苦笑しながら体を前傾させ、総太郎に顔を近づけてきた。

「怖がっちゃってるみたいね。ま、今のはほんの挨拶っていうか、あたしの膣の具合のよさを味わってもらいたかっただけだから安心しなよ。ここからは本当に優しくしかしないからさ」

 そして、冴華はそのまま総太郎に体を重ねるようにして密着してくる。柔らかな胸が総太郎の胸板に当たり、男の本能を刺激してくる。

「こうやって抱き合いながらセックスしたら、とっても気持ちいいと思うんだよね。あたしもこういうのは初めてだから楽しみかも」

 冴華はそう言いながら総太郎の首の後に両手を回し、しっかりと抱きついてきた。もう少し近づければ再びキスしてしまえるほど、顔も至近距離だ。
 そのまま、冴華は腰を動かし始める。

 ずっ、ずちゅっ、ずぷっ、ずっ……

「くうっ! あ、ああっ!」
「ふふふ、あんたのおちんちんの熱が伝わってきて、悪くない気分だよ。男とのセックスを楽しむってのは初めての経験だけど、これは気持ちよくなれそう」

 冴華は、完全に支配した男相手でなければセックスを心から楽しむことができないのではないか。快楽に染められた意識の中で、総太郎はおぼろげにそんなことを思った。
 そして、男とのセックスを楽しみながら、総太郎の心を屈服させようとしてもいる。なぜこの行為でそれができると思っているのかは分からなかったが。

(前回みたいに、俺の心を折るセックスをすればいいだけなんじゃないのか。どうして冴華は、今さらこんな優しいセックスをしようとしているんだ……)

 分からなかったが、考えても無駄なことではある。総太郎は冴華の行為に流されるしかないのだ。
 冴華は小刻みに腰を上下に動かしていただけだったが、次第に様々な方向に動かし始め、グラインドもしてくるようになる。

 ぐちゅっ、ずっ、ずぷっ……くちゅうっ、ずちゅっ……!

「うあっ、そ、そんな動きをされたら……あ、ああっ!」

 どぷっ、びゅっ、びゅるっ……

「ふ、ああぁっ……」

 グラインドで味わわされたペニス全体への刺激に耐えられず、総太郎は絶頂する。冴華に抱きしめられ、その体温と柔らかみを味わわされながらの射精は、素直に男としての幸福感を覚えるものだった。

(こ、こいつとのセックスで、こんな気持ちよくなっていていいのか……)

 せめて不快に感じ続けるべきではないのか。だが、冴華の感触や匂いにさらされ続け、そして間近に見る整った顔立ちを見つめていると、だんだんと可愛らしく感じられてきてしまう。

「また絶頂してくれたみたいね。まあ、あたしにかかれば当然のことだけど」

 目から敵意が感じられなくなっている。こんな視線を彼女が向けてくるなど、思ってもみなかったことだ。

「ほら、そろそろまたイっちゃうんじゃない? 遠慮せずに、あたしの中でいっぱい気持ちよくなるといいわ」
「くっ、あっ、ああっ!」
「どうせなら、乳首もいじってあげようかな。えいっ」

 冴華は両手の指で、総太郎の乳首を強くつまんで小さくひねる。その絶妙の力加減で、総太郎は乳首から全身に弱い電気が走ったかのような感覚を味わわされる。

「うっ、こ、これは……」
「で、乳首つまみながら、思いっきりイかせてあげる。膣を締めて、と」

 ぐちゅううぅっ!

「うあっ、あっ、ああああっ!」

 びゅっ、びゅくっ! どぷっ、びゅっ……
 びくっ、びくんっ……

「ひぐううぅっ……!」
「あはっ、すっごい気持ちよさそう。男もやっぱり、乳首をいじられたら気持ちいいわよね。どう? 全身が快楽で痺れちゃうみたいでしょ」
「は、はうぅっ……はぁ、はぁっ……」
「ふふっ、満足してくれたみたいね。あたしもなかなか気持ち良かったわ。総太郎は相変わらず、おちんちんは優秀ね」

 ひとしきり総太郎の精液を搾り取ってみせてから、冴華は喘ぐ総太郎を満足げな笑みを浮かべながら見下ろした。

「格闘でもこっちの方でも、あたしを満足させてくれる男はあなただけかもしれない。これなら本当に、あなたをあたしの元に迎えてもいいかもね」

 そう言って、ついで彼女は甘い声をかけてきた。

「総太郎。あなたは今日ここで、あたしと婚約しなさい。あたしの婿になって、神倉家の一員になるのよ」
「え……」

 思いもかけないことを言われ、総太郎は混乱する。

「それが一番自然なこと。もともと神倉と斤木の家はひとつだった。あたしたちが結婚することで元に戻すべきなのよ」

 結婚。冴華がそんなことを持ちかけてくるとは、総太郎はまったく想像したこともなかった。

「ど、どうして……お前は、俺のことを憎んでいるはずだろう」
「憎んでいたわよ。でも、どっちかというと憎いのはあなたの父親のほうだったし」

 いったん言葉を切って、冴華は柔らかな視線を向けてくる。

「あなたのことは、屈服させて叩き潰してやる、としか最初は思っていなかったけど……あなたは努力によって格闘家としての実力をどんどん上げてきたし、今では斤木流の奥義を身につけていて自らの流派を知悉してもいる。神倉と斤木がひとつになるにあたって、あたしの婿としてあなた以上に相応しい人間はいないと今は感じているわ」

 評価してくれている。おそらく、総太郎が完全に敗北した今だからこそ、冴華も口にする気になったことなのだろう。そうでなかったら一生言わなかったであろう言葉が冴華の口から次々に紡がれてくる。

「あなたがあたしの元に来ることで、神倉流は完璧な流派となり、初代の頃の力を取り戻すことになるでしょう。それを、あなたも見たくはない?」

 興味がない、といえば嘘になるだろう。
 だが、結局は神倉に斤木が吸収されることになるのであり、本来それは受け入れがたいことだ。
 それでも、総太郎はそもそも嫌とは言えない。負けた自分には抵抗することはできない、そんなあきらめの気持ちがある。

「見たくないと言っても、どうせお前はそうするんだろう……」
「そうだけど、できれば納得して受け入れて欲しいんだよね。まあ、これから最後の仕上げをするから、それが済めば自分から結婚してくれって言ってくるようになるだろうけど」

 この上、どんな責めを味わわせようというのか。今日の冴華の責めは心地よいものばかりで、総太郎の心のどこかにはこれからの行為への期待があった。このままなすがままになっていたらどうなってしまうのか、前回の苦痛をともなう責め苦とは違った恐怖がある。

「あたしの奴隷夫になって、一生を神倉流のために尽くしなさい。それがあなたの、敗者としての運命よ」
「うっ……」

 やはり冴華はただ総太郎を好きになって結婚を持ちかけてきたわけではないのだ。しかし、ろくでもない運命が待っていそうなことは分かるが、冴華の美しい瞳に見据えられて、総太郎は心臓の鼓動が高鳴るのを止められない。
 そして、冴華は顔を近づけ、そのままキスをしてきた。

 ちゅうぅっ……

「むぐっ、うっ……」

 びゅくっ、びゅっ……

 キスの瞬間、その唇の感触の柔らかさだけで総太郎は興奮が一瞬で高まり、射精してしまった。先ほどのキス手コキと、その後のセックスの心地よさによって総太郎はすっかり冴華の責めに弱くなってしまっていて、ことにキスにはまったく耐えられない状態にされていた。

(うう……こいつのキス、なんでこんなに心地いいんだ……)

 冴華の体の感触、そして甘い匂い。それを味わわされながらのキスは信じられないほどの心地よさがあった。冴華が相手でなければ素直に貪る気になっていたであろう快楽だ。
 そして、唇を重ねながら、冴華は小刻みに腰を動かし始める。

 ずっ、くちゅっ、ぬちゅっ……

「むっ、うっ、んううっ」

 ペニスに伝わる柔らかな膣肉の刺激。唇と性器と、そして抱きしめられていることで体の感触とも相まって、まさに全身で冴華の体を味わわされているのだ。
 もはや冴華への今までの感情は霧散し始め、もっと彼女との性行為を楽しみたいと感じてきている。このまま快楽を味わわされ続ければ、必ずそうなってしまうだろう。
 分かっていても、総太郎はそれを止めることができなかった。

「んぐっ、うっ……」

 ちゅっ、ちゅうっ……ちゅぷっ、れろっ、じゅぷっ……

 唇をねぶって、その柔らかさを味わわせながら、ゆっくりと舌を絡めて粘膜の感覚を伝えてくる。
 絡み合う粘膜が痺れたような感覚になり、その微妙な性感が総太郎の全身に染み渡ってゆく。そして、全身の性感帯がジンジンと痺れてきたタイミングで、すべてを把握しているかのように冴華はペニスを刺激してくるのである。

 ぐちゅっ、ずっ、ずぷっ……ずっ、ずちゅっ……

「う、ううっ……んっ、むうっ、ぐっ……」

 そして、総太郎の射精感が高まってきたところで、冴華はペニスを膣の一番奥まで飲み込みながらゆっくりと絞めつけてくるのだった。

 くちゅううぅぅっ……!

「んううううぅぅっ!」

 どびゅるるるっ! びゅくっ、びゅっ、どぷんっ……!
 びくっ、びくんっ……

「んぐっ、うっ、うあぁっ……」

 射精の快楽が全身を突き抜け、キスによって心地よい性感に浸された全身は、さらに快楽が増幅されてゆく。
 優しく、柔らかに射精に導かれてゆく感覚。体中が最高の快感に包まれていて、いつまでもこの快楽に浸っていたいと思わされる。もはや、総太郎の表情はだらしなく緩み、冴華の体をぎゅっと抱きしめながらキスを貪欲に求めるようになっていた。

(な、何も考えられない……もっともっと、冴華とセックスして、キスし続けていたい……)

 そして、そんな快楽を味わわされ続け、さらに三度ほど射精してしまうと――総太郎はもうすっかり冴華の虜となってしまっていた。
 長かったキスをやめて冴華が顔を離すと、総太郎は緩んだ顔に寂しげな色を見せた。

「あ、ああ……も、もっと、もっと続けて欲しいのにっ……」
「そう思ってくれるのは嬉しいわ。でも、そろそろ悦ばせてあげるのも終わりにしないといけなくてね。みんなを待たせてしまっていることだし」

 そういえば、お互いの弟子たちはどうしているのだろうか。だが、少し考えを巡らそうとしたものの、すぐに総太郎は冴華とのセックスで頭がいっぱいになってしまった。

「う、うう……ま、まだ、セックスをっ……もっと、射精したい……」
「ふうん、まあいいわ。お望み通り、最後に一発、思いっきり射精させてあげる。これでもう、さすがのあなたも射ち止めになると思うけどね。えいっ♪」

 そして、冴華は膣を締めつけてくる!

 にちゅううううぅぅっ!

「ひっ、ひぎいいいいぃぃっ……!」

 びゅくっ、びゅくっ……びゅっ、びゅくっ、どぷっ……

「あっ、あひいいぃっ……き、きもちいいっ、きもちよすぎてっ、あ、あああぁぁ……!」

 総太郎はなおも絶頂し続ける。冴華の膣肉はペニスに絡みつきながら絞めつけ続け、そのおかげで総太郎のペニスは絶頂し続けてしまうのだった。
 そして、そのままペニスが精液を冴華の膣内に吐き出し続け、もはや何も出なくなると、総太郎の快楽はさらに強くなる。ドライオーガズム状態で絶頂し続けることにより、今まで味わったことのない快感が間断なく襲ってきているのだ。

 にちゅっ、ぐにっ、ぐにゅううぅっ……!

「うあっ、あっ、あああああぁぁ!」

 びくっ、びくっ……

 体を痙攣させながら、涙とよだれをだらしなく垂れ流し、総太郎はこの世のものとは思えない快楽に浸り続ける。
 そして、冴華がようやく膣の力を抜いたときには、総太郎は体を完全に弛緩させ、呆けた顔を晒しながら冴華を見上げるだけだった。

「あ……ひ……」

 快楽の余韻で痺れる体。もう思考もまともに働かないような状態だが、それでも総太郎の目は冴華の美しい裸体に釘付けになっている。
 その冴華は、総太郎を見下ろして愉快そうに笑みを漏らした。

「ふふ……どうやら、ようやく仕上がったみたいね。これであなたは完全にあたしのものよ、総太郎」

 いつの間にかポニーテールが解けて、茶色がかったロングヘアを垂らしている冴華。肩にかかったその髪を背中に送る仕草をすると、見事な丸みをしたおっぱいが小さく揺れた。

「さあ、どうかしら? 総太郎、あたしとの結婚を受け入れてくれる? もし受け入れてくれたら、今日ぐらいの快楽をたまには味わわせてあげてもいいんだけどねぇ」

 そう言われて、もう拒めるような総太郎ではなかった。

「す、する……」
「え?」
「け、結婚する……俺を、冴華の夫にしてくれ……」

 この快楽を失うことなど、もう考えられない。勝負に完敗し、もはや冴華にはかなわないという意識があったことも手伝って、総太郎は完全な屈服宣言となるそれを口にすることに抵抗がなかった。
 総太郎の口からその言葉を聞いて、冴華は愉悦の表情を浮かべた。

「ふっ、ついに堕ちたわね。分かっていたことだけど、セックスであなたを屈服させるのは格闘勝負で勝つことよりもよほど簡単だったわね」

 冴華は安堵と満足感が入り混じったような顔でひとつ息をつくと、総太郎に再び小さくキスをした。

 ちゅうっ……

「む……んぐっ……」

 短いキスだったが、総太郎は大きな喜びを感じる。どうやら、自分が心から冴華に屈してしまっているということをおぼろげに感じるが、それ以上のことはもう考えることができなかった。
 冴華はやや嗜虐的な目をして、総太郎にささやきかけてくる。

「あなたはこれから、世界で一番嫌いな女の子と結婚しなくちゃいけないの。一生、自分からすべてを奪った憎い女のために尽くすのよ。それが、あなたがあたしに屈服した代償。流派の技はもちろん、あなたの人生を丸ごとあたしに捧げてもらうわ。夫なんだから当然よね」

 そう言いながら、冴華は総太郎の頬を撫でる。

「あたしは男を愛することはないから、夫となる男が嫌いな相手だろうと問題ないわ。世間体と、それに後継者を作るために必要っていうだけの存在だしね。ま、あんたなら練習台っていう役目も果たせるし、そういう意味ではそこらの男よりは価値があるけど」

 これからのことを彼女が語るに及んで、ようやく総太郎は自分が口にした言葉がどれほど絶望をもたらすものであるか、理解できてきた。
 だが、もう何もかも遅く、また、この運命を避けることはおそらくできなかった。総太郎は冴華の与える快楽に抵抗する気力も、また性技の実力もなかったのだから。

「心配しなくても、家事とかは分担してあげるから。奴隷夫とは言っても、神倉流を本格的に広めていくには総太郎の存在は必要不可欠だから、それなりに遇してあげるわ」

 そして冴華は立ち上がり、総太郎のペニスを踏みつけた。

「あ、うう……」
「頑張ってくれれば、ちゃんとご褒美もあげる。こうやって、ね……」

 ペニスをゆっくりと踏みにじる冴華。その行為に、総太郎はもう痛みとともに心地よさを感じてしまう。

(俺は、もう……冴華には、逆らえない……)

 そう理解しながら、総太郎は再び体を震わせ、小さく絶頂する。
 こうして、総太郎は神倉冴華に完全に屈服した。長きに渡ったライバル同士の戦いは、総太郎が一度たりとも冴華に勝てないまま終結し、斤木流は神倉流に吸収する形でその歴史に幕を閉じることとなったのであった。
 冴華は総太郎の惨めな姿を見下ろしながら、喜びに体を震わせた。

「ついにあたしと神倉流が、斤木流に対して完全勝利したんだわ。これで母さんの無念も晴らせたし、あたしにとっての最高のハッピーエンドね。ふふっ……あははははははっ!」

 道場の中に冴華の勝利の高笑いが響き渡り、それを聞きながら、総太郎の意識は闇に落ちていったのだった――


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